2006年11月29日

06題詠100首のかな表記統一しました

このところ、現代かな遣ひを止めて、歴史的かな遣ひに戻らうと努力してゐます。

現代かなづかひ(以下新かな)は、占領下のやっつけ仕事的改悪による非合理的な日本語だからです。

それに比して歴史的かな遣ひは、旧かななどとひどい呼び方をされてゐましたが、本当はこれこそ学者や文人によつて2千年も積み上げてきたところの、由緒ある日本語なのです。

私的かつ文化的文章であれば、なほさらのこと新かなを使ふ必要はなく、いや新かななんぞ使つては、正しい日本語が書けないのではないかと思ふのです。
前置きが長かつたですが、『題詠100首自選集』刊行の準備として、かな表記を歴史的かな遣ひに改めて統一いたしました。 以下にまとめて載せておきます。


001:風    ふうわりと優しき風を屋根にのせ赤き電車は春へと走る 
002:指    いと白き細き指にて持ちあぐる轆轤(ろくろ)の上の信楽の土
003:手紙   若き日の手紙の束を紐解きてはや身まかりし友をかなしむ
004:キッチン 足元も危ふきほどに酔ひ果てて帰りてもなほキッチンドリンク
005:並    「人並みにおごれや」と友は言ひたまう 平方根より割勘がいい
006:自転車  自転車を押しつつ友と語り行くサドルに遊ぶ春の陽の影
007:揺    動揺を見透かされたるここちして がぶりと飲んだ茶にむせかへる
008:親    あれほどに憎み嫌ひし父親に年ふるごとに あはれ似てくる
009:椅子   古びたる椅子捨てかねて迷ひゐる 幼き日々の思ひこもれば
010:桜    荒れ狂ふ桜吹雪にまかれつつひとと別れし夜もありしかな
011:からっぽ 宴果てぬ踏みしだかれた花びらにからっぽの壜ころがってゐる
012:噛    悔しさうに大人の顔で歯噛みしてビリでゴールへ入る幼な児
013:クリーム 『北極』といへる冷菓の店先でソフトクリームなめしおもひで
014:刻    生きるとは時を刻みて捨つること帰らぬ日々は生ごみのごと
015:秘密   駅を出る路地の酒肆ちょっと寄るどってことない小さい秘密
                         *酒肆…さかみせ    
016:せせらぎ わが内を流るる川はせせらぎにあらず 汚き泥の奔流
017:医    そのかみの口べたの友 海碧き岬の町で医を業とせり
018:スカート 軽やかに白きスカートひるがへし駆けよるひとに花ふりかかる
019:雨    すきとほる柿の若葉のうすみどりはつかに濡らしこぬか雨ふる
020:信号   信号の赤から青に変はるとき思はず駆ける癖をかなしむ
021:美    旅の宴チマチョゴリ着てポーズとる美女ども汝ら幸せなるか
022:レントゲン レントゲン写真に見へる黒い影 心のうちもこんなもんだよ
023:結    結論から先に言へとふ友ありき 生くるを急ぎ身まかりにけり
024:牛乳   配達の牛乳瓶を取り落とし涙せし子の黒き目おぼゆ
025:とんぼ  一匹の赤とんぼスイと舞ひこみぬスーパーストアの広き空間   
026:垂    雨垂れは軒端を伝ひ落ちてくる 鬱 閉じ込めし小さき水滴
027:嘘    そんな嘘目を見りゃ判るといふきみに じつと見られてアタフタとする
028:おたく 「おおたくん おい太田くん」と呼び止めて人違ひした春の誰そ彼
029:草    足もとより枯れ草原はひろがりて 空のあはひにとけ入り果つる
030:政治   お粗末な政治屋ばかり増えたよと 悲憤慷慨 おやぢ立飲み
031:寂   「寂しければ」と頭に詠めるうたありて吉井勇の土佐の籠り居
032:上海   ほろ酔へば友は唄へり 語尾かすれ呟くやうな上海ブルース
033:鍵    頑なになりゆく胸の結ぼれを解く鍵欲りて モーツアルト聴く
034シャンプー シャンプーする白きうなじに見惚れしは遠き日のこと記憶うすれて
035:株    きみがくれしただ一株の緋牡丹が今年もひとつ一つだけ咲く
036組    汝が胸の淡き縹(はなだ)の組紐の先に光れる十字架(クルス)かなしも
037花びら   好き、きらい・・花びら千切るオフィリアの声聞こえくる緑の水辺
038:灯    終列車出づれば駅舎灯は消えて ごうと風入る さいはての駅
039:乙女   ひたむきにカットグラスを彫りすすむ乙女の碧き目はも厳しき
040:道    大森のダリア花咲く谷戸の道 過ぎつつあふぐ木漏れ日の翳
041:こだま  極寒の狭きフィヨルド行く船の短き汽笛峡(かひ)にこだます
042:豆    豆ごはん嫌ひて箸で選り分けし子も今四十路 分別の人
043:曲線   艶めける背の曲線をくねらせてアシカは水にどぶりと落ちる
044:飛    凧の糸切れて飛び去り泣き出せる吾をおぶひし祖父の背おもほゆ
045:コピー  若き日の汝のおもかげをコピーして胸にしまへどセピアに褪せぬ
046:凍    風すさび身も凍るかの北の海の迫門(せと)行く船の水尾(みお)は鋭き
047:辞書   お互ひの心の辞書の更新ができず諍ひ背を向けて寝る
048:アイドル アイドルと呼ばれるやうな若き子の名さへ憶えぬ爺ぃとなりぬ
049:戦争   「戦争を知らずに・・」といふ歌さへもキミらは知らず 昭和遥かに
050:萌    草萌えず斑(はだら)の雪の残りたる宗谷丘陵に動くもの見ず
051:しずく  日のしずくしたたりやまぬ野に出でてタンポポの黄を摘めば春往く
052:舞    咲花(さきはな)てふ名さへゆかしき駅過ぎぬ春のぼた雪舞ひ舞へる中
053:ブログ  丹念に花の記録を書き継ぐる友のブログにコメントは来ず
054:虫    雨雨雨…虫の居所わるい夜 ショパン聴きつつぬるい茶を飲む
055:頬    かの春を過ぎにし日々といふなかれ今も覚ゆるぞ汝が紅き頬
056:とおせんぼ ひた往けばとおせんぼする人もなし草に消ゆらしこの細き径
057:鏡    この家に入りて久しき年月に鏡台老いぬ吾妹(わぎも)と共に
058:抵抗   抵抗をしても無駄だと「死」に言はれ「生」の穴より出づるは何時か
059:くちびる くちびるに紅引くことを忘るなと言ひかけてふと口をつぐめり
060:韓    韓国(からくに)のひとうるはしく微笑めば紅きチョゴリはなほ紅く見ゆ
061:注射   注射針きらりと光るそのときはもう泣き喚く子でありしかな
062:竹    若竹はすんすんすんと伸びてゆく空の碧さを突き刺すやうに
063:オペラ  妻死なせ自らも死ぬオペラみて 外に出づればこころ冷えゆく
064:百合   鎌倉へ越ゆる山路の百合の花今年も陰にひそりと咲くや
065:鳴    鳴神が絶間の姫の誘惑に負けしこころはいたく身に沁む
066:ふたり  目を合はせ黙せるふたりやがてそと冷たき指をふれて別れぬ
067:事務   事務的と馬鹿にするなよ 四十年コツコツやった意味はなんだよ
068:報    報はれぬ日々であつたと吾言はず今に生きむと向日葵をみる
069:カフェ  オペラ座の灯ともし頃はカフェに入りつのる愁ひをかみしめてみる
070:章    ここにきて休止符もあり わが生の第四楽章コーダの譜面
071:老人   あと追へばきみのひかがみ眩しかり急ぎ給ふな吾は老人(おいびと)
072:箱    玉手箱俺は開けぬと若ぶるな 洒落てゐるけど髪染めてるな?
073:トランプ クリムトの「接吻」の絵のトランプを購ひし店 ひとに教へず
074:水晶   水晶の念珠つまぐる詩人(うたびと)の琴うた誦せば今し陽は落つ
075:打    打ち上ぐる花火に乗りてかの空の星屑となる吾をおもひぬ
076:あくび  幸せはあくびをしてりゃくるものか 歌の文句のやうにゃいくまい
077:針    針千本のまされたとてわが癖の小さな嘘は止められもせず
078:予想   予想せぬことにしあれば魂(たま)冷えて虚ろになりぬ友の急逝
079:芽    酔ひやすくなりゆく友の病の芽育ちゐたるを吾ら気づかず  
080:響    一瞬の静寂ののち振り下ろすタクトにいまぞ 響 満ち来る
081:硝子   立て付けの悪き硝子戸ゆさぶりていねがたき夜を黒南風の吹く
082:整    整へる身形(みなり)したれどツアー客は声かしましく異土の街ゆく
083:拝    礼拝の人出できたる聖堂の外は物乞ひ居りて雨降る
084:世紀   夢にみし十九世紀末のことマーラー通りウイーン裏町
085:富    貧富の差かくも大きくなりたるを聖母マリアは救ひ給ふや
086:メイド  メイド・イン・ジャパン良品多しとふ さびしからずや人の品質
087:朗読  『蝉しぐれ』きみの朗読身に沁みぬ 涙腺ゆるむ歳となつたよ
088:銀    横ざまに白銀(しろがね)の糸投げかくる土蜘蛛が居る雨の街灯
089:無理   無理したらあかんやんかと叱られて甘えてゐたい女(ひと)もありけり
090:匂    紫陽花ははつかに濡れて夕明かり淡き縹(はなだ)の匂ひ移ろふ
091:砂糖   所在なく氷砂糖をなめてみる妻の外出(そとで)の雨の日の午後
092:滑    鎌倉の栄華も勇(いさむ)の放蕩も見て流れ来し滑川はや
                          *勇=吉井勇
093:落    浅間嶺に落つる夕陽と競ひつつ駆けて列車はトンネルに入る
094:流行   流行を追へどついては行けぬ吾 不易たるには浅き才能
095:誤    誤りは直せばすむと笑ひしが度重なりて不安増えゆく
096:器    手にとりて白磁の器いとしめば金糸雀(かなりあ)色の酒が囀る
097:告白   そのかみの幼き恋の告白もいまは酒宴の肴となりぬ
098:テレビ  いまもなほ故郷の川変らじとゆくりなく見しテレビで知りぬ
099:刺   「おまさん先祖の墓地をどうしまっそ!」故郷人の言葉耳刺す
100:題    生きるのか死ぬのかそれが問題だ まぁいじゃないかいづれ死ぬのさ



この記事へのコメント
題詠100首blog自選集の刊行、おめでとうございます。あとはジョーさんのみの作品集出版を目指すわけですね。
特に014,033が好きです。

いわゆる旧かな遣いへの想い、少なくとも詩を詠むときくらいは使いたい気持ち、わたしも同様です。

「舊かなに 想ひ馳せれど 韻律が
        搔き亂される ニッポンの今」

不勉強を棚に上げるのが得意なわたしというところでしょうか。
これからも楽しく拝見させていただきます。


Posted by pond at 2006年11月29日 05:07
pondさん いつもありがとさんです。
言行一致しないJoeなんで、反省しきりです。
遊んでばかりで、まだ短歌への打ち込み方が足りません。

歴史的かな遣ひで書いてゐると、頭が引き締まるやうに思へてきます。
これからも、ずつと続けたいと思ひます。
ただWEB上では、変換が一度でいかないのがマドロコシイですね(笑) 
Posted by Joe at 2006年11月29日 13:20
こんにちは
「風と戯る」ではお世話になりました。今日、角川短歌12月号を買ってきてぱらぱらと見ていて、ジョーさんのお名前を佳作のらんで発見しました。(^^)
Posted by やねうらねこ at 2006年12月03日 15:26
気がつきましたか…
恥づかしいですね。
佳作欄のづっと後ろの方で、
カッコ悪いです。

・賞味期限ほどなく終わるものなれば熟してる間に食べて行きなよ

さういへば、屋根裏ネコさんのblogにも
賞味期限を詠つたお歌がありましたよね…!

ま、お互いがんばりましょう。 よろしく。



Posted by ありがと やねうらねこさん Joe at 2006年12月04日 04:47
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