詠み終つた2008年題詠100首の総集編です。
まだまだ推敲をしなければと思ふのですが、とりあへずまとめておきませう。
【001:おはよう】
おはやうと声かけてくるみちのべのイヌノフグリの青のやさしさ
【002:次】
次はもうないと思ひぬ春の野に切なさをこめ笑顔贈れば
【003:理由】
何といふ理由もなくて涙せり歳のせゐだと思ひたくなけれど
【004:塩】
減塩の食事に慣れて久しかり涙の味も薄きこの頃
【005:放】
意図もなく放たれし矢がわが胸にグサリと立ちぬ射手は笑まへど
【006:ドラマ】
人生はドラマなどとふ気障なこととても言へざり裏方のわれは
【007:壁】
手を触れて滑らせてゆく長き壁どこまでゆけば果てるものやら
【008:守】
そのかみの小さな悪事はなつかしき 路面電車の薩摩守よ
【009:会話】
老い人の会話途絶えし一刻(ひととき)の想ひは粟の煮ゆる間なりし
【010:蝶】
蝶と舞ひ蜂と刺したるボクサーもありき 昭和の真盛りなりき
【011: 除】
今年から配偶者控除はないといふ友の目を見ず杯を差す
【012: ダイヤ】
「ダイヤ菊」とふ名前の地酒飲んだなと思ひだしをり酔ひ醒めの朝
【013: 優】
一年生「優」のハンコに笑みてゐる桜の中の「よくできました」
【014: 泉】
うま酒に酔ひて寝し夜の夢のなか泉のごとく歌わき出づる
【015:アジア 】※
アジアンとふ国籍わかぬ料理ありされどレシピは混血美人
【016: %】
生存率何%かとも訊きあへずまだ知らされぬ悲惨の事実 (四川大震災)
【017: 頭】
頭のみ瓦礫の中に見えてをり未だ息ありや目さへ開かず (四川大震災)
【018: 集】
集ひくる人ら埃にまみれゐて水を食をと鍋を差し出す (四川大震災)
【019: 豆腐】
豆腐渣(とうふさ)は四川料理の渣(かす)なれや手抜きの家屋食ふすべもなし
(四川大震災)
【020: 鳩】
山崩れ街は瓦礫に埋もれゐて鳩群れ遊ぶ広場などなし (四川大震災)
【021:サッカー】
みはるかす砂漠を前にちょこまかと子等蹴りてをりサッカーの球
(モロッコにて)
【022: 低】
二つ玉の低気圧ブスッと串刺しにして列島は夏へ行くらし
【023: 用紙】
投票の用紙書かずにくしやくしやと丸めて箱へ投棄してくる
【024: 岸】
見えもせぬ向かうの岸をキと睨み龍馬立ちをり桂の浜に
【025: あられ】
批判の声あめあられ浴ぶ政治家もやがては後期高齢者となる
【026: 基】
この国にアメリカの基地まだありてあんぽんたんの兵士駐まる
【027: 消毒】
廊下まで消毒液のにほひきて ゆまりの音す夜半の病棟
【028: 供】
供ふなら安酒でよし生きてある今こそ越の寒梅を呉れ
【029: 杖】
歌会に杖突いてくる老い人の歌みな若く空を翔けをり
【030: 湯気】
叉焼がたつぷり乗つてうまさうな羅麺の湯気みえて喉鳴る
【031: 忍 】
忍冬の蘂のゆらぎのかそけさを愛(かな)しと思ひて歩みとどめぬ
【032:ルージュ】
寺の鐘聞きつつ下る異端者のわれ待ち受けるルージュの風車
(モンマルトルにて)
【033:すいか】
ごみ箱に投げ入れやすいかなしみをきみは笑ひぬ「お天気屋ね」と
【034: 岡】
岡の辺に愁ひて発(ほ)句を案じゐる蕪村の肩にさくらばなちる
【035: 過去】
過去れば苦しきことは忘れ果つまなじりの皺深くなるのみ
【036: 船】
高みより大船映画の盛衰を目守りて坐せる観音の笑み
【037: X】
V字型に景気回復せしころは意気軒昂の若人なりし
【038: 有】
憂愁のBlueこそわれにふさはし 有終の美なぞ来ると思はず
【039: 王子】
若王子(にゃくわうじ)神社に若きプリンスは在(おは)さず梛木の樹が立てるのみ
【040: 粘】
粘り強く守りてチャンス待ちしのみわが過ぎこしの省エネゲーム
【041: 存在】
それだけのただそれだけの存在と思ひぬ水と蛋白と骨
【042: 鱗】
背に負ひしやさしき鱗抜け落ちぬ顎の逆鱗なほも見ゆれど
【043:宝くじ】
玻璃窓の箱に笑まひて宝くじ売るをみなあり金魚にも似る
【044: 鈴】
わが首に鈴をつけむと言ふひとと青水無月の夜に別れぬ
【045:楽譜】
一頁めくれば次ぎのAppassionataまた見えてくるわが生(よ)の楽譜
【046: 設】
裏階段のぼりて暗きアパートに友描きをりし夢の設計
【047:ひまわり】
あだ名してひまはりといふmixiの友あり会へば名よりやさしき
【048: 凧】
糸切れて宙(そら)に失せたる凧(いかのぼり)夕つ茜にとけてゐるらむ
【049: 礼】
きざはしに夕べの光とどまりて巡礼びとのあまた憩へる
【050: 確率】
あと五年生くる確率数ふればわがこの想ひ捨てがたきかも
以下(その2)へ続く